多焦点眼内レンズMultifocal lens

多焦点眼内レンズとは

白内障の手術では、濁った水晶体を取り除き、「眼内レンズ」という人工のレンズを眼の中に移植します。一般的な白内障手術では、単焦点の眼内レンズが用いられます。術後は水晶体による調整機能が無くなるため、単焦点眼内レンズを挿入した場合、焦点が合う範囲は「近方」「中間」「遠方」のいずれか1点になり、それ以外の場所はメガネが必要となります。
遠くに焦点を合わせる眼内レンズを挿入した場合は、近くを見る際に老眼鏡が必要となり、近くに焦点を合わせる眼内レンズを入れた場合には、遠方用のメガネが必要となります。

この弱点を克服したものが多焦点眼内レンズで、複数個所(2か所以上)に焦点を合わせることができます。
ただし、多焦点眼内レンズはその複雑な構造から単焦点眼内レンズと比較して、ハロー・グレア(光のにじみ)が出たり、コントラスト感度(見え方の質)が低下します。また白内障以外に目に病気があると適応外になる場合もあります。しかし、遠くも近くも眼鏡を使用せずに裸眼で見たいという方には「多焦点眼内レンズ」がおすすめです。多焦点眼内レンズを選択することで、眼鏡の使用機会を減らすことが期待できます。多焦点眼内レンズを選択された方々からは、「手術のあとは裸眼で遠くも近くも見えるようになった」「眼鏡がいらなくなった」など、嬉しいご感想を多くいただいています。

費用面では眼内レンズ代が自己負担になります。

当院では、様々な種類の眼内レンズを取り扱い、患者さまのライフスタイルや目の状態に合わせて適切な眼内レンズの選択を行っています。多焦点眼内レンズは、日常生活での視力向上に大きく寄与し、手術後の生活の質を高めることが可能です。人生100年時代といわれる現在、ジムに通ったりスポーツをされる方も多いと思います。白内障術後も裸眼で過ごすことをご希望の方はお気軽にご相談ください。

▲単焦点眼内レンズのイメージ
(手元か遠方どちらかにピントが合う)
▲多焦点眼内レンズのイメージ
(手元も遠方もピントが合う)

多焦点眼内レンズのメリットとデメリット

多焦点眼内レンズのメリット

遠くも近くも見ることができる

多焦点眼内レンズの最大のメリットは、複数の距離にピントを合わせられることです。これにより、見える範囲が広がり、メガネやコンタクトレンズの使用頻度が減ります。ただし、全ての状況でメガネが不要になるわけではなく、多焦点レンズの種類によっては補助的にメガネやコンタクトレンズが必要になる場合もあります。

ご自身の生活スタイルに合わせた見え方を選択できる

多焦点眼内レンズには豊富な種類があり、それぞれ異なる特徴があります。患者さまのライフスタイルや見え方の希望に合わせて最適なレンズを選ぶことが重要です。

同時に老眼や乱視の改善が期待できる

多焦点眼内レンズによる白内障手術では、水晶体の濁りを取り除くだけでなく、乱視老眼も同時に治療することが可能です。

多焦点眼内レンズのデメリット

コントラスト感度(見え方の質)の低下

多焦点眼内レンズは複雑な構造をしているため、単焦点眼内レンズに比べてコントラスト感度がやや低下します。つまり、単焦点眼内レンズの焦点が合った場所の見え方は、多焦点眼内レンズよりも鮮明です。しかし、近年の多焦点眼内レンズは改良が進み、見え方の質が改善されています。

夜間のハロー・グレア現象

多焦点眼内レンズは複雑な構造をしているため、夜間に光を見ると以下のような症状が起こるケースがあります。

ハロー現象: 光の周辺に輪がかかってにじんで見える症状
グレア現象: 夜間に急に強い光を見たときにまぶしい、光がギラギラと見えるなどの症状

これらの症状は、時間の経過とともに気にならなくなる方が多いですが、気になる場合はハロー・グレアを軽減するタイプのレンズもあります。

見え方に慣れるまで多少時間がかかる

単焦点眼内レンズは1か所にピントが合うシンプルな構造のため、術後すぐに見え方に順応します。一方、多焦点眼内レンズは複数の距離にピントが合うため、脳が順応するまでに時間がかかることがあります。早い方であれば1か月程度、時間がかかる方で3~4か月程度かかることもあります。術後半年経過しても改善が見られない場合は、医師にご相談ください。

多焦点眼内レンズの種類

多焦点眼内レンズには、さまざまなタイプがあり、それぞれに特徴があります。以下に代表的な多焦点眼内レンズの種類を紹介します。

2焦点眼内レンズ

2焦点眼内レンズは、「遠方」と「近方」の2つの距離に焦点が合うレンズです。近距離は約30cm、40cm、50cmの中から選択することが可能です(メーカーやレンズの種類により異なります)。

メリット・遠くと近くの2つの距離にピントが合うため、日常生活での視力を向上させます。
デメリット・中間距離(例えばパソコンの画面や料理中の作業など)が見えにくくなることがあります。

焦点深度拡張型(EDOF)眼内レンズ

焦点深度拡張型(EDOF: Expanded Depth of Field)レンズは、自然な見え方を追求した新しいコンセプトのレンズです。各メーカーが独自に開発した技術により、ハロー・グレアを軽減し、遠方から中間までを連続して自然に見えるように設計されています。

メリット・遠方から中間までの視力が自然に見えるため、日常生活での利便性が高まります。
・ハロー・グレアの現象が軽減されます。
デメリット・手元の見え方は少し弱くなり、老眼鏡の装用頻度が多くなることがあります。

3焦点眼内レンズ

3焦点眼内レンズは、「遠方」「中間」「近方」の3か所にピントを合わせることができ、日常生活で必要な視界を幅広くカバーします。

メリット・遠く、中間、近くの3つの距離にピントが合うため、メガネやコンタクトレンズがほとんど不要になります。
デメリット・3つの距離に光を分散させるため、光の配分が少なくなり、各距離での明るさを確保する必要があります。ハロー・グレア現象が発生しやすいですが、最近のレンズは改良が進み、この現象も軽減されています。

選定療養

保険外診療のうち国が認可したものについて適用される制度で、保険診療と保険適用外の治療を併せて受けることができます。
選定療養での多焦点眼内レンズ手術は、手術費用が保険適用ですが、多焦点眼内レンズの費用については、自費でのご負担となります。

当院で採用している多焦点眼内レンズ

選定療養で選べる眼内レンズ

レンズの名称テクニスシンフォニーTECNIS SymfonyテクニスシナジーTECNIS SynergyパンオプティクスPanOptix
レンズの画像
光学部デザイン焦点深度拡張型+回折型焦点深度拡張型2焦点+回折型3焦点回折型
焦点距離(ピント)中~遠 (50cm~∞)手元は眼鏡が必要近~遠(33cm~∞)遠・中・近(∞・60cm・40cm)
乱視矯正
ハロー・グレアありありやや少ない
生産国米国米国米国
メーカーエイエムオージャパンジョンソン・エンド・ジョンソンアルコン
税込価格乱視なし(片眼)240,000円+手術料(保険適応)300,000円+手術料(保険適応)350,000円+手術料(保険適応)
税込価格乱視あり(片眼)280,000円+手術料(保険適応)350,000円+手術料(保険適応)400,000円+手術料(保険適応)

注意事項

  • 白内障以外に眼疾患がある場合、多焦点眼内レンズが適応とならないケースがあります。眼疾患があると、多焦点眼内レンズの機能・効果を十分に発揮できない可能性がありますので、事前に医師とご相談ください。
  • 多焦点眼内レンズはすべての距離にピントが合うレンズではなく、若い頃の視力に完全に戻るものではありません。多焦点眼内レンズにはさまざまな種類があり、それぞれピントが合う距離が異なります。手術後も状況や多焦点レンズの種類に応じてメガネの装用が必要になる場合があります。
  • 職業や生活スタイルによっては、多焦点眼内レンズの適応について慎重に検討する必要があります。特に精密な視力が求められる仕事や夜間の運転が多い場合などは、医師と十分に話し合ってから決定してください。