緑内障Glaucoma

緑内障とは

様々な原因によって、眼と脳を繋いでいる視神経が傷つき、減ってしまった神経線維に対応する部分の視野(見える範囲)が狭くなる病気です。40歳以上の5.8%が罹患(多治見スタディ)し、我が国の失明原因の第1位、中途失明原因の第2位である、非常に重要な疾患ですが、無症状で進行することが多いため、診断・治療されていない方が非常に多いという問題があります。

原因

緑内障の原因ははっきりとは分かっていませんが、眼の中の圧力(眼圧)を十分に下げることで進行を抑制できる(遅らせられる)ことが知られています。

分類とその病態・検査・治療

形態学的分類:隅角(房水の流れで出口にあたる部分)が開いている開放隅角緑内障と、隅角が閉じている閉塞隅角緑内障とに分類されます。

基礎疾患による分類:原因疾患の存在しない原発性と、ぶどう膜炎などに続いて起こる続発性とに分類されます。

① 原発開放隅角緑内障(狭義の原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)

隅角は開放している(開いている、問題なし)が、隅角の先にあるシュレム管や(網目構造をした)線維柱帯が目詰まりを起こした結果、房水の流れが悪くなり、眼圧が(個々人の至適な範囲に比べて)上昇することで、長期的には視神経線維が障害され、気づかないうちに緩徐に視野障害などが進行していく疾患です。
初期には視野の一部が欠けても自覚症状に乏しい(対眼がその視野をカバーするので)が、時に眼精疲労などの不定愁訴を呈します。
後期には視野障害が進行し、車の運転や日常生活にも支障を来し、最悪の場合は失明に至ってしまいます(末期になると黄斑部の神経線維も障害される)。

図1. 緑内障性視野障害 (静的視野検査)

検査

細隙灯顕微鏡検査で正常な隅角所見、十分な深さの前房を認め、眼底検査では視神経乳頭陥凹の拡大、乳頭縁の菲薄化、視神経線維層の菲薄化を認めます。
房水の流れが悪いため、眼圧の日内変動が大きく、飲水試験でも病的な眼圧上昇(6mmHg以上)を認める(引水試験やうつ伏せ試験を現在施行する施設は少ない)、眼圧は正常~正常より高め(個々人のベースラインより高くなる)です。

図2. 視神経乳頭陥凹の拡大 (眼底写真)

図3. 隅角検査 (細隙灯顕微鏡写真)

治療

点眼治療を行い、眼圧を低下させます(視神経の脆弱性には個人差があり、至適眼圧は個々人により異なる)。
点眼治療での眼圧下降が得られない場合や、視野障害が進行していく場合は、線維柱帯切開術(線維柱帯の網目構造の目詰まりが起こっている場合に、この網を破って広げることで房水の流れを改善する手術)あるいは線維柱帯切除術(線維柱帯そのものを切除し、さらに強膜の一部を切除することで前房と結膜下をバイパスし、房水を持続的に眼外へ排泄させる濾過手術)やチューブシャント手術(金属のシャントを用いて前房と結膜下をバイパスし、房水を持続的に眼外へ排泄させる濾過手術)を行います。

② 原発閉塞隅角緑内障

急性緑内障発作を起こす可能性が高いタイプの緑内障です。
急性緑内障発作とは、急激に隅角が閉塞することで房水の流れが悪くなるために眼圧上昇を来し、下記の激烈な症状や、急速な視神経線維の障害、対応部位の視野障害を来す疾患です。
遠視(眼軸長が短い)、小眼球、浅前房、狭隅角では、もともと隅角が狭いため発作が起こりやすいとされており、日本人では高齢女性に多いとされています。
急激な高眼圧により、激しい眼痛(頭痛)、悪心、嘔吐を来し、高眼圧が持続した場合は視神経線維が高度に障害され、最悪の場合、1日で失明に至ります。

図4. 閉塞隅角緑内障 (細隙灯顕微鏡写真)

図5. 閉塞隅角緑内障 (前眼部OCT)

検査

細隙灯顕微鏡検査で浅前房、結膜充血や毛様充血(結膜や虹彩の循環障害により充血)を認めます。
隅角鏡(鏡付きの接触型レンズで、通常観察できない隅角をみることができる)検査では隅角閉塞を認めます。
角膜浮腫(角膜内へ入る水分量が内皮のポンプ機能を超える)に伴い短時間での視力低下、虹輪視もきたします。
対光反射消失、中等度散瞳(眼圧が高すぎて虹彩の循環障害が起きて動けなくなる)状態に陥り、眼圧50-60mmHg、時にはそれ以上まで眼圧が上昇します。

治療

速やかに眼圧下降を計らなければ、視機能障害を来してしまうので、緊急で治療が必要になります。
内科的治療はピロカルピン(副交感神経作動薬=縮瞳薬)頻回点眼(縮瞳すると隅角が開きやすくなる)と眼圧降下薬点眼を併用します。さらにアセタゾラミドの内服(房水産生を抑制、浸透圧利尿を促進)、や高浸透圧薬の点滴(血中から房水中への水分移行を阻害)を行います。

角膜が透明化しつつある段階で、外科的治療として、レーザー虹彩切開術あるいは周辺部虹彩切開術(虹彩に穴を開けて前後房を交通させることで、後房圧が上昇しても虹彩による隅角閉塞が起こらないようにする)や白内障が進んでいて水晶体が房水の流れを妨げている場合は白内障手術を行います。

*アトロピン(副交感神経遮断薬=散瞳薬)点眼は、散瞳による隅角閉塞を誘発するため禁忌となります。

③ 続発緑内障

何らかの疾患に引き続いて房水の流れが悪くなり(せき止められ)、眼圧上昇や視野障害を来す疾患群の総称です。
原発性のものと同様に、開放隅角のものと閉塞隅角のものとがあります。

ステロイド緑内障:ステロイドに感受性の高い人が一定の割合で存在し、ステロイド長期使用によって開放隅角のまま眼圧上昇を来します。

ぶどう膜炎に伴う緑内障:眼内の炎症に伴い、炎症細胞が線維柱帯に目詰まりを起こして眼圧上昇を来します。

外傷性緑内障:外力により隅角が傷つき、房水の流れが悪くなるため眼圧上昇を来します。

血管新生緑内障:網膜が虚血に陥ると、(酸素を求めて)新生血管が虹彩や隅角に出現することがあり、隅角新生血管の周囲に線維性膜が生じると房水の流れが障害されるため眼圧上昇を来します。

水晶体に起因する白内障(成熟白内障など):白内障が進行して厚みが増すことで隅角を狭めたり、炎症が惹起されて線維柱帯の目詰まりを起こすことで眼圧上昇を来します。

悪性緑内障:眼内手術後に、房水が硝子体に迷入することで後房の容積が上昇し、隅角閉塞して眼圧上昇を来します。治療は急性緑内障とは逆でアトロピン(散瞳薬)点眼による水晶体の後方移動を期待、水晶体の後囊をレーザー切開したり硝子体切除することで容積を減らします。

図6. 色素緑内障 (前眼部OCT)